CHAPTER1|PREMIER LEAGUE アーセナル
(4−4−2) ○10 ○11 ○6 ○7 ○8 ○9 ○2 ○3 ○4 ○5 ○1
メンバー表(07-08)
番号 | 選手名 | |
---|---|---|
1 | アルムニア | |
2 | クリシー | |
3 | ガラス | |
4 | トゥーレ | |
5 | サーニャ | |
6 | ロシツキー | |
7 | フラミニ | |
8 | セスク | |
9 | フレブ | |
10 | アデバヨール | |
11 | ファン・ペルシー | |
監督 | ベンゲル |
バイタルエリアの生かし方
- 冷静沈着、洗練された物腰のベンゲルは、エリート然とした監督で、コーチよりも腕利きの弁護士のようだ
- 前監督のグラハムとは180度異なる攻撃的でクリエイティブな戦術、トレーニング方法から食事の取り方まで、ベンゲルは次々と改革を行なってアーセナルを自分の色に染め上げた
-
- 「スタープレーヤーは組織、戦術の邪魔になどならない。個と組織は対立概念ではない。」
-
- 個と組織は対立しない、個を輝かせるために共通のルールを作る
- アーセナルの大きな特徴はバイタルエリアへの侵入である
- イングランドのクラブが行なう攻撃のイメージは単純だった
- サイドからクロスを入れ、ゴール前で合わせる。
- ドリブルで抜いてシュート、ワンツーからシュート、ハイクロスを競り落としてシュート
- ダイナミックだが、攻撃のアプローチは単純だ
- イングランドのクラブが行なう攻撃のイメージは単純だった
- 成否を決めるのはキックの精度や競り合いの強さ、ドリブルなどの個人能力である
- ベンゲルは、そこへ頭脳を持ち込んだ
<図1>
┌─────┐ ┌──────────┬─────┴─────┴─────┬───────────┐ │ │ ○ │ : × │ │ │ │ : ● │ │ └─────────────────┘ : │ │ │ ○ ○ ○ ○ : │ │ │ ● ○ ● × │ │ │ ● ○ ○ ● │ │ │ ○ ● │ │ │ ● │ │ ○ ● │ │ │ └────────────────────────────────────────┘ ○=相手選手 ●=アーセナルの選手 ×=ボール :=ボールの動き |=人の動き
- だが、アーセナルのアプローチは違う
- 狙いは、「DFラインを押し下げること」
- 守備側にとって最も困るのは、ペナルティエリア内でシュートを打たれることである
- アーセナルの戦法は、バイタルエリアを広げるところから始まる
- サイドでボールホルダーの追い越しをかけると、守備陣はオーバーラップする選手をマークする
- すると、サイドでマークに出たDFが最終ラインの基準になる
- 先の例でいえば、最終ラインは、フレブを追い越したサーニャの位置よりも前方に置くことはできない
- そんなことをすれば、サイドからクロスが入った時点でゴール前はガラ空きになり、走り込むアーセルの選手を阻止することができない
- サーニャがフレブを追い越した時点で、DFラインはそこまで下がり、ペナルティエリア内へ押し込まれる
- 相手のDFラインが下がれば、必然的にバイタルエリアが空く
- 最終ラインを押し込んだ後、フレブは中央へボールを運び、バイタルエリアにいるセスクらにパスをする
- ここでセスクへパスが通れば、多くの場合、慌ててセスクへ誰かが立ち向かう
- バイタルエリアで、前向きにボ−ルを持っているセスクが30メートル以内からシュートを放てば、かなりの確率で枠へ飛ばすだろう
- ただし、守備側には連係が必要だ
- ここで、新たな問題が守備側に提示される
- セスクには、いくつかの選択肢が与えられる
- ゴールへシュートor オフサイドぎりぎりの位置にいるFWへのパス
- 緩やかな押し上げとはいえ、動いているDFの反応時間は確実に遅れる
- 止まっている状態なら足が届く範囲へのパスでも、動きの逆をつかれれば、1メートル横のボールをカットする事も難しいかもしれない
- DFとDFの間にポジションをとったFWへパスを通せば、トラップひとつで裏へ抜け出せる
- DFが素早く反応したとしても、今度はFWがワンタッチで味方へ渡すチャンスがある
- DFが自分の横にいるFWへ向かって動くなら、そのDFが動いた背後のスペースは空くからだ
- いったんペナルティエリア内へ下がったディフェンスラインを押し上げる
- ひとりがその選手を追走すれば、押し上げて陣を引き直したDFラインとの間にギャップができてしまう
- →そうなったら、せっかく押し上げて相手FWの動きを規制した努力は水の泡
- では、後方から走り込んでくるアーセナルの選手を追ってペナルティエリア内へ駆け戻ってくる味方に合わせて、DFラインを下げるのか?
- そんなことをしたら、ペナルティエリア内で相手FWをフリーにしてしまうことになる
- 望みはひとつしかなく、駆け戻ってきた味方が、最終ラインの位置で急停止すること
- だが、そんな器用なことができるのか?
- 早くブレーキをかけ過ぎれば、走り込んできた相手はオフサイドにならず、しかもフリーになる
- ブレーキが遅れたら、ラインとのギャップは避けられない
- さあ、どうする?
創造性のためのルール
- ベンゲル監督は、プレミアリーグに頭脳戦を持ち込んだ
- 頑強で空中戦に強い、スピードがあってカウンターなら威力を発揮する、ドリブルさせれば天下一品などの個人能力でカタをつけるのではなく、チームとして、パスワークでの崩しを中心としたスタイルを構築した
- 相手守備陣にクイズのような問題を提示し、自分たちは相手の出方次第で、その裏をかくカードを残す
- 例に挙げたバイタルエリアの使い方のように、選手個々の創造性を発揮させる、あるいは発揮しないではいられない状況をチームとして作っている
- 戦術そのものが、個々の選手の判断力、創造性を伸ばしていく
- 例えば、バイタルエリアを広げるとこまではチームとして用意する
- だが、そこから先は個々の選択であり、クリエイティビティの問題になる
- 試合ごとに、頻繁にそうした状況が作られることで、選手たちは自然に鍛えられていく
- 例えば、バイタルエリアを広げるとこまではチームとして用意する
- すべてをひとりでやらなければならないわけではない
- そこまでスーパーな動きは要求されていない
- だから、アーセナルはスーパースターは必要としてない
- そこまでは、チームとしてお膳立てをする、個人が輝くためのルールである
- 華麗なパスワークに目を奪われてしまうが、アーセナルを支えているのは恐ろしいまでの運動量だ
- サイドにボールが出れば、必ずといっていいほど後方の選手は追い越しをかける
- 通常なら追い越しを諦めるぐらい距離が空いている場合でも、SBは俊足をとばして追い越しをかけていくここで注目されるのは、SBの選手のほとんどが黒人選手だということ
- ベンゲルは、早くから黒人選手のフィジカル能力に注目していた