CHAPTER2|SERIEA ローマ

(4−2−3−1)

○11
○8   ○9   ○10

○6     ○7

○2   ○3  ○4   ○5

○1

メンバー表(07-08)

番号 選手名
1 ドーニ
2 トネット
3 ファン
4 メクセス
5 カッセッティ
6 ピサーロ
7 デ・ロッシ
8 マンシーニ
9 ペロッタ
10 タッディ
11 トッティ
監督 スパレッティ

◇「ゼロトップ」の可能性
サッカーの起源の段階では8人いたFWの数は徐々に減っていき、現代では1トップが主流になりつつある
・こうしたフォーメーションの変化を例に、サッカーは守備的になっていると指摘されることがあるが、ことは そう単純ではない(昔と今の最も大きな変化は、選手の運動量の増加にある)
・全員守備、全員攻撃、中盤や時にはDFまでもが攻撃に顔を出すようになったので、あらかじめ多くのFWを 前線に張らせておく必要がなくなったのだ
→「フォーメーション=戦術」だった昔と違って、現代サッカーにおけるFWの数はチームの攻撃性を表す  指標とは必ずしもいえなくなった

ローマは、そうした戦術史の流れを最も忠実に体現しているチームである
・基本フォーメーションは4-2-3-1
・本職のFWを置かないローマの基盤は、選手個々の運動量にある
・特に2列目の3人、ダッディ、ペロッタ、マンシーニの機動力は圧巻だ
・最前線のトッティが自由に動き回って空けたスペースに2列目の彼らが次々と侵入していく

通常、中盤が流動的に動き回るアクションサッカーは、ボールポゼッションが前提条件
・だが、ローマが画期的だったのは「ゼロトップ」を採用しながら、カウンターを基本戦術に捉えたことだ
・本当の武器はひたすら隠し、真に重要な場面で相手に突きつける
・洗練された戦術を持ち、なおかつ質の高い選手が揃っていれば、相手をねじ伏せたいと思うのが人間の心理
  →だが、そこをグッと我慢し勝負に徹することができる

当初はカウンター寄りのチームだった彼らも、最近はポゼッションの意識を強めている
・SBも積極的に上がるようになった
  →ローマの強力なカウンターを警戒して引いて守備を固めるチームが増えたので、次のステップに移行した
・その結果、カウンターもポゼッションもできるようになった柔軟性はローマの強みになっている
 あえて弱点を挙げるなら、その中間の適切なバランスをとれないことだろう
  →07-08シーズンは、前がかりになった時に裏をとられて失点するケースが目立った

◇「ゼロトップ」の両輪
ゼロトップの基本原理は単純である
・CFのトッティを中心に[スペースメイキング]→[フリーランニング]→[パス交換]を繰り返す
・一見すると誰でもマネできそうだが、彼らに続くチームはいまだ現れていない
  →なぜなら、このシステムにはクリアすべき重要なポイントが大きく分けてふたつあるからだ

(1)トッティは通常のCFの仕事も高いレベルでこなしている事
・持ち前の身体の強さで相手を背負っても問題なくボールキープでき、彼が前線でタメを作ることで後方選手の 押し上げを助けている
・しばしば誤解されることだが、ファンタジスタを最前線に置けば自動的に「ゼロトップ」になる訳ではない
  →それだけなら、あっさり潰されて終わりである
・よく前線でボールが収まらないと攻撃の流れができないといわれるが、それは「ゼロトップ」でも同様だ
  →基本的なCFの仕事をこなせる土台があるからこそ、はじめてファンタジスタとしてのプラスアルファが   生きてくる  
・特にトッティはDFライン裏へ飛び出すプレーも得意で、FWというカテゴリーで見てもレベルの高い選手

(2)チームとしてのオートマティズム
スパレッティウディネーゼ時代からパターン化したカウンターを得意とする戦術家だった
  →ただし、元代表監督のトルシエのように自分の型に選手をむりやり当てはめるのではなく、選手の特徴に   応じてシステムを組み立てている
・型を利用するのは両者共通だが、スパレッティは自分のストックにある型から最も今のチームに合っているも のを選び出すイメージ
  →ウディネーゼ時代の代名詞だった3-4-3から、ローマの監督就任後にあっさりと4-2-3-1にシステム変更   したのは、それをよく表している

型を持つことのメリット
・選手の動き方、パス回しのルートをマニュアル化することでプレーの速度を速め、ミスを減らせることにある
・一方、型を重視する指揮官は選手の個性を軽視する傾向があるが、スパレッティが単なる戦術マニアと一線を 画しているのは「戦術は選手の個性を効率的に引き出す道具でしかない」とわきまえているからだ
・ローマは各選手の得意なプレーを引き出すように選手の並びを工夫し、綿密にパターン攻撃が構築されている

1トップのトッティの仕事
 ・中盤まで引いてボールを受けてDFライン裏へパスを送るか、2列目のペロッタに落とすこと
ペロッタの役割
 ・そのトッティが引いたスペースへ飛び出すか、彼が落としたボールを拾ってDFライン裏へ送る
 ・または両サイドへ展開することである
2列目両サイドのタッディとマンシーニ
 ・DFライン裏への走り込みとフィニッシュの仕事が期待されてる
 ・右利きのマンシーニが左サイド、右利きだが強烈な左足シュートを持つタッディが右サイドに配置されてい  るのは、中へ切り込んでのシュートを引き出すため
以前はトッティはOMF、ペロッタはDMF、マンシーニはRWB(またはRSB)を務めることが多かった
スパレッティはこうしたポジションに対する先入観を捨てて「選手が具体的に何をできるのか?」を追求して システムを構築している
・選手個々のやるべき事がシンプルに整理されている
だからこそ、「ゼロトップ」という奇抜なシステムが、机上の空論で終わらずに機能しているのである

本来「ゼロトップ」は、「トッティ」と「オートマティズム」の両輪が揃わないと機能しないもの
・だが、オートマティズムがチーム全体に高いレベルで浸透しているローマ
  →マンシーニやペロッタが1トップを務めた時ですら、チームが崩れなかった
・もともとダイレクトパスを想定してコンビネーションが組み立てられているので、1トップの仕事はくさびの ボールをダイレクトえ落とせば、それで良かった
  →あとは2列目の選手がフォローしてくれる
・ただし、トッティが1トップを務める時と比べれば攻撃の選択肢や精度は大きく劣るが、少なくとも最低限の チームのメカニズムは保つことができる

トッティという異次元
「ゼロトップ」は、日本人が目指している「ボールと人が動くサッカー」を実現する装置としても興味深い
・実際、2007年のU-17 W杯に臨んだ城福監督率いる日本代表は、「ゼロトップ」のチームだった
・2トップの大塚、端戸と2列目の水沼、柿谷の前線4人が特定のポジションを決めずに流動的に動き回る ・だが、2006年のU-17アジア選手権を制したこのスタイルは、世界大会では限界を露呈した
 前線にボールが収まらないので全体を押し上げられず、攻撃に人数をかけられない
・城福監督はあえて日本人らしい小回りが利いてパスの上手い選手を集めたが、それが発揮できるのはボールを 支配してこそ  
→相手に押し込まれ自陣に釘付けにされては、せっかくの機動力も宝の持ち腐れである

アジリティ(俊敏性)や足下のテクニックに特化するという、日本人の長所を前面に押し出した選手選考、戦術コンセプトは興味深かった
・チームとしてのオートマティズムもあった
  →だが「ゼロトップ」を機能させるには、それだけでは足りなかった

ローマはトッティがいなくても「ゼロトップ」を機能させられると前述したが、それはあくまでも非常手段
・おそらく彼らほどの戦術理解度があっても、トッティ抜きでは数試合が限界のはずだ
プラニッチが1トップに入った時、戦術コンセプト的には「ゼロトップ」ではなくなっている

長期に「ゼロトップ」を成り立たせるには、トップ下でありながらCFの仕事もできるトッティの存在が不可欠
・90年代後半、イタリアでトップ下のポジションが絶滅危機に瀕した時にクローズアップされたのが「トップ  下でありながら点も取れる」トッティの存在だった
→今思えば彼の幅広い能力は、従来のポジションの枠に収まらないものだった