CHAPTER3|LIGA ESPANOLA R.マドリード

(4−4−2)

○10   ○11

○8       ○9
  
○6     ○7

○2   ○3  ○4   ○5

○1

メンバー表(01-02)

番号 選手名
1 カシージャス
2 R.カルロス
3 パボン
4 イエロ
5 M.サルガド
6 エルゲラ
7 マケレレ
8 ジダン
9 フィーゴ
10 ラウール
11 モリエンテス
監督 デル・ボスケ

アーセナルとの違い
このクラブの特筆すべき点は「勝つだけでは意味がない」と建前ではなく本気で思っていることだ
・実際にカペッロは国内リーグを制したにもかかわらず、「サッカーの内容がR.マドリードに相応しくない」 という理由で、2度にわたって解任されている
・「世界のサッカーの模範になるR.マドリードが、守備的なサッカーをすればサッカー界のマイナスになる」
→ライバルのバルセロナにも同じ事がいえるが、高慢までに理想を追求する姿勢がクラブとしての「格」に つながっている

興味深いのは、同じく攻撃サッカーを旗印に掲げているアーセナルとの違いだ
 ベンゲル就任後、エンターテインメント性の高いパスサッカーを志向してきたプレミアリーグの名門
  ・今では一種のブランドとして確立している
・07-08シーズンは、往年のトータルフットボールを彷彿とさせる未来的なサッカーを披露し、ヨーロッパ 最高のクオリティと評価された
 だが、そのシーズンオフに、セスクとのコンビで中盤の核となっていたフラミニがACミランへ移籍
  ・フレブはバルセロナに引き抜かれた
・なぜ、クラブの未来を担うべき逸材がこうもあっさりチームを去ってしまうのか?
→その理由はアーセナルには選手をつなぎ止めるプラスアルファの魅力がないからだろう

若手の青田買いや30歳以上の選手は1年契約を義務づけるなど、徹底した合理化を推し進めるアーセナル
・ビジネスの観点ではまったく正しいが、逆にいえば選手にとってもクラブとの関係はビジネスに過ぎない
  →これはサッカーだけに限らないが、経営の効率化のみを追求してもトップには立てないという好例だろう

歴史あるクラブは、お金だけではないプラスアルファの価値を持っている
ミランは、ファミリー的なつながりを重視し安易に選手を切らない
マンチェスターUには、奇跡のチームという神話(”ミュンヘンの悲劇”からの復活、”カンプノウの奇跡”)
・R.マドリードにはステファノに代表されるその時代のNo1選手が在籍してきた伝統がある
 何十年もその状況が続けば、いつしか当然のように一流選手が集まるようになる
ビッグクラブ同士の勝負は、最後はタレント力の差に帰結する
・現状の戦力と照らし合わせてチームを作っていくのは確かに正論
 だが、このクラスのクラブになると、それだけではわずかに足りない
→取り合いになる一流選手を惹きつけるなにかが必要なのだ
・R.マドリードは監督の枠組みに選手を当てはめるのではなく、選手ありきのチームだ
 選手を尊重する伝統
→それがこのクラブのプラスアルファの魅力であり、アーセナルとの差でもある

◇素材を生かす名人、デル・ボスケ
”選手ありき”の伝統を持つR.マドリードの監督には、素材を生かす能力が求められる
・与えられた超一流の食材の良さをいかに損なわずに調理するのか
 寿司屋の板前に近いイメージだろうか
→近年の監督の中でそれが特筆して上手かったのが、デル・ボスケだった

デル・ボスケは、R.マドリード.カスティージャ(Bチーム)の監督を務める傍ら、トップチームの監督が解任された後の”つなぎの監督”を任される便利屋だった
・1999年、トシャック解任後に晴れて正式な監督に就任すると、4シーズンでCL優勝2回、リーグ優勝2回、 トヨタカップ優勝1回の偉業を達成し、R.マドリードは黄金期を迎えることになる

ボールを持ったらだれにも奪われないジダン、WGとSBを兼ね備える脅威の攻撃力を持つロベルト・カルロス、驚異的な突破力とキープ力を併せ持つフィーゴ、そして二人分の守備力を備えたマケレレ
 →デル・ボスケは、他にはない個性を持つ選手の特徴を、有機的に絡めることに成功した

当時のR.マドリードのスタイル
・ひと言で表すと、卓越したボールキープ力を背景にした流動的なパスサッカー
ジダンフィーゴのキープ力を生かして各選手が縦横無尽に動き回る
  →方向性としては、「接近・展開・連続」をコンセプトに掲げている岡田監督率いる日本代表に近い

密集した中央エリアのパスワークに拘泥する日本代表と違って、R.マドリードはサイド攻撃も強烈だった
・右はフィーゴ、左はロベルト・カルロス
 1対1で突破できる強力なサイドプレイヤーがいるからこそ、中央でのパスワークがより生きてくる
・特に左サイドのメカニズムは独特だ
  →LMFのジダンが中央寄りにプレーするので、LSBのロベルト・カルロスはマイボール時にはLWGのよ   うなポジションをとる左右非対称の変則布陣である
・これは選手ひとりひとりのキープ力の賜物だ
→ボールを奪われる回数が少ないので、遠慮なく形を崩すことができる




同じくポジションを崩した流動的なパスサッカーを志向する日本代表
 ・狭いエリアでのパス交換を引き出すために、選手同士の距離を近づけることを意識している
・そして、守備時はそれを利用して囲い込みを行う攻守が一体となったサッカー
一方、当時のR.マドリード
 ・DFラインをあえて低い位置に保つことで、広いエリアで1対1の強さを生かす狙い
ポジションチェンジはするが、選手同士の距離は日本代表ほど詰まっていない
・守備のコンセプトは、ボールポゼッションを高めて守備機会を減らすこと
両チームの目指す方向性は間違いなく似ているが、それを実現する手段がここまで対照的なのは興味深い

クラブの内情を知り尽くし、選手からの信頼も厚かったデル・ボスケ
・本来は戦術家だったといわれているが、R.マドリードでの仕事はもっぱら調整役だった
・戦術家と呼ばれる監督が好むトップダウン型の戦術は、「平均的な選手」を想定して組み立てられている
だからこそ、たとえ誰かが欠けても穴埋めが利く、いわば質の高い量産品のサッカーといえる

デル・ボスケのR.マドリードは選手の個性を追求したオーダーメイドのチームだった
・ひとりでも欠けるとチーム力はガタ落ちするが、その分強力なチームが作れる
デル・ボスケは個性を組み合わせる名人で、ジダンの攻撃力をマケレレが引き出すという具合に、それぞれが 補完し合う関係が出来上がっていた  
・苦手なことをやらせなかったせいか、不思議と怪我人も少なかった

現在のビッグクラブのトレンドは、明らかにこちらだ
・組織的な守備というベースは共通しているが、攻撃はタレントの個性に依存している
・中心選手が代わればチームも変わる
 だが、変わったチームは、控え選手の個性を生かした遜色ないチームに仕上げられる
  →それがビッグクラブの主流だ

◇失われるネバーランド
選手を尊重するのがR.アドリードのチームカラー
・だが、「銀河系軍団」と呼ばれた時代は少々それが行き過ぎてしまった感がある
・ターニングポイントは、デル・ボスケの解任と同時にマケレレを放出し、ベッカムを獲得した03-04シーズン
→以降、攻撃と守備のバランスが崩壊したR.アドリードは、しばらく迷走を続けることになる

結局、リーガ・エスパニョーラの覇権奪還はカペッロが就任した06-07シーズンまで待たなければならなかった
 この頃からR.アドリードは、少しずつ体質を変えつつある
・今までのような脂の乗り切ったスター選手ではなく、ガゴやイグアイン、マルセロなど「未来のスター」 を積極的に獲得するようになった
・同時にチーム作りの方法論も従来のように、まず良い選手を集めてからそれを組み合わせる形ではなく、   監督の戦術に選手を当てはめる方向にシフトしている